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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.93
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2021  93
よもやま話
小児神経疾患へのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の試み
滋賀県立小児保健医療センター 小児科・遺伝科
野崎 章仁
大阪信愛学院短期大学 看護学科
吉田 智美



 当院は、滋賀県にある小児専門の病院です。常勤の小児科医が主に小児神経を専門としている医師で構成されているやや特殊な施設です。そのため、様々な理由で神経疾患を持つ障害児・者の診療を多くしています。病院の規模は小さいですが、他科の先生方やコメディカルの方々との距離が近く、連携が取りやすい病院です。
 10年ほど小児神経領域に携わり、優秀な先輩方やコメディカルの方々に指導をいただき、小児神経専門医・臨床遺伝専門医として勤務しています。当院にはがん患者はいませんが、様々な神経疾患により死に関わる事は一般小児科医をしていた時より多いと感じています。サプライズ・クエッションで疑問に感じない症例が多い状況です。その中で医療的ケアについて、何を何処まですることが患者達の幸せにつながるのかと自問することも増えてきました。また、昨今障害児・者に関わる家族の年齢も上がってきており、子供より先に家族が亡くなることも経験をしました。家族の思いも反映できていたのかなど新たな悩みも生じています。そのため、小児神経疾患でのACPの重要性を痛切に感じる様になりました。近年、小児科学会や小児神経学会で小児の緩和ケアやACPのことが取り上げられており、小児診療の中でもACPの重要性が示されています。
 では、小児神経疾患でどのようにACPをしたらよいのか?と疑問が生じたのですが、具体的に参考にするものが乏しい状況でした。また身近にACPを行っている医療従事者もいませんでした。そのため、手探りではありますが、3年ほど前からコメディカルと院内で気軽に相談できる場所作りとして「倫理カフェ」を始めました。まずは考えることが重要と思い、相談できる場がある形をとりました。当院には緩和ケア専門医がいないため、学会の講義、論文、教科書、厚生労働省のホームページなどで倫理カフェ参加者とACPの知識を深めていきました。そして、実際に患者(意思表示が難しい症例もおられます)・家族と話をすると、机上で考えているより、話をすることが何よりも重要だということがわかりました。死についても話がでるためつらい話ではあるが、患者の人生について患者・家族・医療従事者などで共有し考えることが可能となり、患者・家族からACPの重要性を教えてもらうことが多いと感じています。ほとんどの障害児・者の家族は、子供の人生や終末期について話し合った事がなかったと答えています。医療従事者がACPの口火を切る事で、その意味を理解し、話し合うことで今の生活の大切さに気づき、いずれおとずれる終末期についても心開ける機会となっています。また患者・家族が、ACPへの取り組みを褒めてくれたり、アドバイスをくれたりなど僕らのACPの先生になってくれています。その中で、当院でのACPの経験を2020年に論文として報告することができました1)。論文内には、「誰でもいつか死ぬよね。なんでその話を隠すの?」など患者・家族のACPに対する意見も載せており、興味があればご一読願えると幸いです。
 なお当院でのACPのやり方が絶対的に正しいとは考えておりません。国、地域、患者・家族、医療者従事者、周囲の状況などで考え方は皆違うと思っています。画一的にこうでなければ、とマニュアル的な対応ではなく、患者・家族と医療従事者らが患者の人生について話すという漠然とした方法ではありますが、ゆとりをもって望む姿勢がよいのではないかと感じています。そのため、「みんな違って、みんないい」と考えています。また医療従事者から習うことが全て正しいとも思っておらず、実際の患者・家族からもらう言葉がとても重要に感じています(当たり前かもしれませんが)。
 最後に、医師一人でACPはできません。当院でのACPは、患者・家族および滋賀県立小児保健医療センターのコメディカルの方々などの共同があってこそ成り立つと思います。引き続き、チーム医療を行い、一人一人の生き方・逝き方を大切にしながら診療に望んでいこうと考えています。

参考文献
1)野崎章仁, 他.Duchenne型筋ジストロフィー患者に対するアドバンス・ケア・プラニングの経験.脳と発達 2020;52:397-402.

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