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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.91
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2021  91
よもやま話
全人的治療である漢方を通して
久留米大学医療センター 先進漢方治療センター
惠紙 英昭

 1987年に医師になり精神科に入局した。
 精神科疾患の全般を研修し、西洋薬を中心とした治療学を学び、大学病院や長期出向先の市立病院では御用聞きのリエゾンコンサルテーションをしてきた。そのなかで、がん患者さんのせん妄、抑うつ、不安など心のケアに携わる時間をいただいた。サイコオンコロジー領域の指導者もいないなか、独学で患者さんが先生だと思って寄り添い続けていたが、若い頃は何もできない自分のふがいなさを感じる日々が続いた。案の定、燃え尽きそうになり、一時期だが緩和ケア領域から離れた。学校医の話をいただき子ども達の治療を中心にシフトした。実は、医師になって3年目に、自分自身が子ども時代から抱えていた西洋医学で言うところの不定愁訴に対して、漢方薬の力を借りて人並みの日常生活を過ごせるようになった経験がある。光明が差した体験から、子ども達には漢方薬を中心に治療に打ち込んできた。
 そうこうしているうちに2007年にがん対策基本法が施行され、ふと自分が燃え尽きかけたことを思い出し、自己実現、自分へのリトライと思って緩和ケア研修会のお手伝いをするようになった。そしてがん医療に携わる医師のためのコミュニケーション技術研修会(CST)のファシリテーターにもなり個別開催も行ってきた。がん患者さんの診察を途中で一時的に断念したという後悔もあったが、自然体で触れ合えるようになっていることに安堵している自分がいる。
 先進漢方治療センターの診察室には、入るなり、「もう治療法がないと言われました。先生、どうか助けて下さい。」と話す患者さん、「もう抗がん剤はうんざりだから漢方薬で少しでも楽になるように助けて下さい。いつかは死ぬけど、抗がん剤で毎日何もできないどうしようもない体のきつさはもう嫌です。少しでも毎日の生活を楽に過ごしたい。」と語る患者さんが駆け込んでくる。
 大学病院から医療センターに異動し、2009年4月から先進漢方治療外来、2015年4月からは先進漢方治療センターとなり、先人が数千年前から残してくれた生薬、生薬チームである漢方薬を駆使して、藁をもつかむ思いで受診するがん患者さんに、精神科医かつ漢方医として、寄り添いながら診療できるようになったと感じている。今は、老若男女、多くの治療に行き詰まり精神的ケアを求める患者さん、不登校などで日々苦しんでいる子ども達など、多彩な病態で漢方治療を求める患者さんに日々触れ合っている。ひとりひとりの患者さんが少しでも明るく喜んで日常生活を過ごせるお手伝いができる本質的東西融合治療を行いたい。やはり患者さんが先生だ。

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