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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.88
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2020  88
よもやま話
人との距離、どう探す? 〜自身の感覚を使って〜
九州がんセンター サイコオンコロジー科
白石 恵子

・距離って?
 “ソーシャルディスタンス”という言葉を毎日耳にする数カ月です。新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、「新しい生活様式」のひとつとして、具体的に人との間隔はできるだけ2メートル(最低1メートル)空けるという呼びかけが行われています。最近は傍に寄り添って話すこともはばかられ、少し離れて話をすることが多いのではないでしょうか。今回のよもやま話は、“人との距離をどのように探すといいか”について考えていきたいと思います。

・感覚は大切
 さて、人と2メートル離れて話をする時にどんな感じがしますか?Aさんは「ちょっと遠いな、話しにくいな」、Bさんは「あまり近寄られるのも好きではないからちょうど良いな」、Cさんは「声が聞こえなくて困る」など、人それぞれ感覚は違うものです。「“感覚”って何?」と聞かれると言葉で明確に言い表せないし、実態を捉えにくい感じがします。感覚とは“外部の刺激を受けて生じるもの”とされています。人は常々無意識に感じているものです。いろいろなことに追われ忙しすぎると、自分自身の感覚を味わうことができないこともありますし、時には感覚を感じすぎるとつらくなる人もいるかもしれません。
 医療の世界において、客観的なデータやエビデンスなどに基づいた言動をすべきと言われていても、私たちは人間ですからある程度は自分の主観が入るものです。ただ、独りよがりにならないケア、自己満足にならないように注意して行動しようと考えている方も多くおられます。そのためには自分の感覚磨きが大切になってきます。どのような感覚を磨いていくのかというと、身近なたとえ話を挙げてみますと「今日のお昼ご飯何にしようかな、うーん、麺かな…うどん?蕎麦?…うーん、和風は和風がいいのだけど、でもなぁ…和風パスタ!そう、なんかしっくりきた」、このような“微妙に違うのだけど…”とか“あぁしっくりきた”というような、好きとか嫌いとかいう表面的なものではなく、少し深いところにある感覚、そういう感覚です。
 私たちは緩和ケアの領域で様々な人間模様に出会います。病気も治療も、家族や社会背景、生きてきた過程もそれぞれ、その時その場で患者さんの感じることは違っています。話をする相手との相互作用もありますので、同じような内容を話していたとしても、受け取る相手によって感覚が変わることも自然なことです。患者のDさんが同じ内容についての想いを、主治医には〇〇、看護師には△△、またリハビリ担当者には☆☆と話をしている、そんな時どう考えますか?内容を理解していないと思いますか?言っていることがころころ変わって精神的に不安定だと思いますか?そうかもしれません、ただそう決めてしまう前に“あぁ、○○とも△△とも☆☆とも感じているのだな”とそのままをいったん受け止めてみるのはどうでしょう?そして、医療者自身がDさんの想いに対して感じている感覚も確かめてみて下さい。Dさんが感じていることに対して、素直にそうだそうだと感じることができていますか?(できなくてもいいんです)別の感覚がそこに何か感じられていますか?例えば、Dさんがいろいろなことを言っているのは、説明が不十分だった医療者の落ち度だと落ち込んでしまう人、どうしてわかってもらえないのだとちょっとした怒りのような感覚でもやもやする人もいるかもしれません。Dさんが困っていそうだから心配だと感じている人もいるかもしれません。相手も自分もいろいろなことを感じて生きています。その感覚をお互いに大切にすることから始めてみることをお勧めします。

・人とのこころの距離の探し方
 話を距離ということに戻してみます。緩和ケア領域で働いていると、つい患者さんに気持ちが入り、近寄りすぎて燃え尽きてしまう経験をした人も少なくないと思います。“こころ(人)の距離をどう保つか”多くの人が抱える課題です。ここでもお互いの感覚を吟味して調整することが必要です。人によって、ぐっと近付いた支え方、寄り添い方を希望される方もいます、それに対して医療者も心地良さややりがいを感じることもあります。ただその反面、気持ちがつらくなることもあります。また、人によっては、少し距離をとってそっとしておいてほしいときもあります。その時にはある程度の距離から見守る程度がお互いにしっくりいくかもしれません。
 人とのこころの距離は、いわゆるソーシャルディスタンスのように決められた数値では決められないものです。相手の感覚を感じる→自分の感覚を感じる→味わう→そして吟味して、しっくりいく感じを探してみましょう。感覚を確かめることは、初めは難しく感じるかもしれませんが、それもトレーニングです。次第に慣れてきますし、自分のメンタルヘルスにも役に立ちます。まどろっこしい話ですが、このコロナの頃合いに自分の感覚を振り返ってみて下さい。

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