line
Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.88
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2020  88
Journal Club
がん性疼痛に対する鎮痛剤使用に関連した患者のトレード・オフについてのMaxDiff分析
こども支援総合クリニックもりかわよしゆき小児科
NPO任意団体「プチボヌール(小さな幸せ)」
森川 みはる

William E Rosa, Jesse Chittams, Barbara Riegel, Connie M Ulrich, Salimah H Meghani
Patient Trade-Offs Related to Analgesic Use for Cancer Pain: A MaxDiff Analysis Study
Pain Manag Nurs. 2020 Jun;21(3):245-254. doi: 10.1016/j.pmn.2019.07.013. Epub 2019 Oct 21.


【目的】
 先行研究ではがん疼痛に対する鎮痛薬の不順守率が指摘されている。本研究では、MaxDiff法を用いて、患者の鎮痛剤使用に関する信念に基づくトレード・オフ(何かを達成するために何かを犠牲にする関係性)を特定し、患者が優先する重要性をランク付けすることを目的とした。
【方法】
 本研究は3カ月の前向き試験(Journal of pain 2015; 16: 825-835)の2次分析である。18歳以上のアフリカ系アメリカ人・白人で、多発性骨髄腫又は固形腫瘍と診断され、がん疼痛に対し継続的に1種類以上鎮痛剤を処方されている207名が対象であった。患者信念の評価を目的に27項目からなるThe Barriers Questionnaire-II、鎮痛剤の副作用の有無と重症度、疼痛の重症度(Brief Pain Inventory)、Social Support Questionnaire、処方された鎮痛剤、患者背景を関連要因として調査し、MaxDiff分析を行った。次にクラスター分析を行い、疼痛信念グループによるランク付けの差異を調査した。
【結果】
 MaxDiffの尤度比検定を行い、患者の疼痛信念が痛み止めの選択肢を考える際の有意な因子であった。「身体を知る(鎮痛剤は身体の中で起こっていることを知るのを妨げる)」「免疫に害を与える」という信念が高い支持を得ていた。鎮痛信念に基づく2つのクラスターでは「身体を知る」「副作用」「後に必要となる」の知識体系が優先事項としてランク付けされた。クラスター1において、「恥ずかしい言動をさせる」「医療者ががんに注目しない」が、クラスター2においては「不平不満と思われる」「恥ずかしい言動をさせる」が優先度の低い項目だった。両クラスターにおいて「薬物中毒の懸念」は4位だった。クラスター間での患者属性による統計学有意差はみられなかった。
【結論】
 今回の研究では、がん性疼痛管理に関する信念に基づく患者のトレード・オフが、鎮痛剤使用に関する患者の選択に有意な影響をおよぼすことを示唆している。参加者は「身体を知る」の優先度が高く、他の信念よりもこの信念に基づいて選択する可能性が高かった。
【コメント】
 本研究はがん性疼痛管理に関する信念に基づく患者のトレード・オフに着目した新しい視点の研究であり、患者のトレード・オフが鎮痛薬使用の意思決定に影響をおよぼすことが示唆された貴重な報告である。今回の結果は医療者が共感的理解を示すことや、個々のニーズや信念に合わせた疼痛管理の一助となると考える。今後多様な背景を対象とすることや、家族・医療提供システム・医療者要因を考慮した研究が求められる。

Close