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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.92
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2021  92
Journal Club
終末期がん患者の悪性腹水に対する最適な穿刺量の検討
国際医療福祉大学病院 薬剤部
佐藤 淳也

Tetsuya Ito, Naosuke Yokomichi, Hiroto Ishiki, Takashi Kawaguchi, Ken Masuda, Hiroaki Tsukuura, Hiromi Funaki, Kozue Suzuki, Kiyofumi Oya, Jun Nakagawa, Masanori Mori , Takuhiro Yamaguchi
Optimal Paracentesis Volume for Terminally Ill Cancer Patients With Ascites
J Pain Symptom Manage. 2021 Apr 29; S0885-3924(21)00310-9. DOI: 10.1016/j.jpainsymman. 2021.04.010. PMID: 33933616


【目的】
 悪性腹水は、終末期がん患者の苦痛症状の一つである。腹水が顕著になった場合の苦痛軽減方法として、腹腔穿刺は一般的に行われる。しかし、最適な穿刺量(ドレナージ量)は不明である。そこで、悪性腹水を有する終末期がん患者に対するドレナージ量の違いによる有効性と安全性を検討した。
【方法】
 研究デザインは、多施設共同前向き観察研究として、23施設の緩和ケア病棟に入院した成人進行がん患者を対象とした。ドレナージ量を3つのグループ(最小容量:<1,500mL、小容量:1,500〜2,500mL、中等容量:>2,500mL)に分類し、次の穿刺までの期間(paracentesis-free survival:PFS)を比較した。また、腹部膨満感の数値評価尺度(NRS:0〜10)と有害事象を3群間で比較した。
【結果】
 登録された1,926人の患者のうち、673人が腹水を発症した。最終的に、穿刺を行った87名の患者が解析された。PFSの中央値は7日であった。年齢、性別、肝転移、ステロイド使用、血清アルブミン値、過去の穿刺歴を因子とした多変量解析では、小容量の穿刺が行われた患者では、中等容量の患者と比較して、PFSの短縮リスクは有意ではなかった(HR:1.14, 95%CI:0.69-1.93, p=0.62)。一方、最小容量の穿刺では、有意なPFSの短縮リスクであった(HR:2.34, 95%CI:1.25-4.39, p=0.0079)。穿刺前後の腹部膨満感NRSの中央値は、それぞれ7.5と4.0であった(p<0.0001)。穿刺前後のNRSの差は、ドレナージ量が増えても有意に増加しなかった(最小容量;-2、小容量;-4、中等容量;-3、p=0.61)。グレード3以上の有害事象は認められなかったが、グレード1-2の低血圧は、4名(5.2%)、腹壁からの漏出は、6名に発生した。
【結論】
 小容量のドレナージ量でも、中等容量と比較して、穿刺間隔を短くすることなく、終末期がん患者の腹部膨満感を緩和することができた。小容量の穿刺は、患者にとってバランスのとれた治療法である。
【コメント】
 悪性腹水は、食欲の低下や便秘、時に悪心嘔吐、呼吸のしづらさを伴う。この症状緩和策として、オピオイドや利尿剤の投与が行われるが、効果は十分と言えない。最近、腹水濾過濃縮再静注法(CART)も保険適用のある治療として普及しているが、予後の限られた患者においては積極的に行われないこともある。苦痛の切迫した患者にとって穿刺は、確実な苦痛軽減法であるが、「抜くと溜まるのも早い」などの臨床的ジレンマがある。今回の研究は、ドレナージの至適量として、1,500-2,500mLであっても次の穿刺の間隔を短くすることなく苦痛軽減が得られることを示した。さらに、ステロイドを使用している患者は、PFS短縮のリスクが半減することも注目すべき点であった。悪性腹水を有する終末期のがん患者の症状緩和に対する穿刺計画に有益な情報をもたらしたと思われた。

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