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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.92
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2021  92
巻頭言
がんの痛みの緩和と今後の課題
信州大学医学部附属病院 信州がんセンター緩和部門
間宮 敬子



 1980年代、私が医学生の時、母ががんで亡くなった。がんの痛みはとても酷いものだと思い知らされた。母が痛みを訴える度に、看護師さんにお願いして、母にブロンプトンカクテルをいただいた。家族としてバッドニュースを聞かされた時の衝撃、母の腹痛がコントロールできなかったことがトラウマとなり、医師になってもがん患者さんには関わりたくないと思っていた。
 卒業試験の直前、消化器内科の講義として海外の先生が英語でご講演をされた。内臓痛の話だった。友人が試験勉強をしている中で、講義の内容が面白くて聞き入った。「痛みを研究している医師がいらっしゃるんだ」と思ったことを鮮烈に覚えている。卒業試験にその講義の内容を問う問題が出てとてもうれしかった記憶もある。
 期せずして麻酔科医になった。ペインクリニック外来を担当するように言われ、以来、痛みの患者を診療させていただいている。当時、緩和ケアという学問は普及しておらず、難治性のがん疼痛患者は、ペインクリニックに紹介されていた。私が初めて投稿した論文は、がんの痛みについての論文だった。プロフェッショナルであるにも関わらず、患者さんやご家族の全人的な痛みに時に共感しすぎてしまう自分を制しながら、診療を行っていた。
 それも今は昔。ここ20年、痛みに対する治療の発展は目を見張るものがある。特にオピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬の種類・剤型・投与方法に関する基礎研究、臨床研究が進み発展してきた。私自身、この間父、姉をがんで亡くしたが、母の時より身体的な痛みに関しては満足のいく管理をしていただいたように思う。
 身体の痛みに関しての今後の課題はがんサバイバーへの対応であろう。がんが原因の痛みに対しては、WHOのガイドラインに準拠しつつオピオイド鎮痛薬を主軸として加療するが、サバイバーとなると、オピオイド鎮痛薬の長期投与の弊害を考慮する必要が出てくる。ASCOは2016年、がんサバイバーの慢性疼痛の管理に対するガイドライン1)を公開している。本邦でもこのようなガイドラインや医療者や患者・家族に対する教育ツールが必要であろう。
 今後、がん患者が痛みから解放され、サバイバーになってからは、必要以上に鎮痛薬を使用することなく生活を継続できるように、医療者としてサポートしていきたい。

1) Management of Chronic Pain in Survivors of Adult Cancers: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline:Judith A. Paice, Russell Portenoy , Christina Lacchetti, Toby Campbell, Andrea Cheville, Marc Citron. Jounal of Clinical Onclolgy 2016

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