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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.89
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2020  89
よもやま話
講習会でほっこりした「ねこの福ちゃん」の話
日本終末期・緩和ケア臨床音楽療法士連絡会(ELC-MT)
代表 新倉 晶子

 ELC-MTは、2005年4月に日本の終末期の音楽療法の発展と情報交換を目的に設立し、音楽療法士の研鑽や交流の場として、2006年より講習会を年1回開催しています。当講習会の事例検討であげた「ほっこりした話」を紹介します。

 これは、緩和ケア病棟に入院していた甲状腺がん末期で60代の男性、小山さん(仮名)と、飼っていたねことの話です。小山さんと息子さんは奥さんが亡くなってから関係が悪くなり、音信不通となっていました。小山さんは飼っていたねこの「福」への想いを音楽療法で度々話されました。音楽療法士には、小山さんが音信不通となった息子さん家族への想いを語っているように感じられ、毎回即興で歌にしていきました。音楽療法士は、ねこの『福』の話を絵本にして、音信不通だった息子さんのお嬢ちゃんにプレゼントすることを提案し、話し合いながら1カ月後に絵本が完成しました。小山さんはそれをクリスマスプレゼントとして、息子さんのお宅に郵送しました。

〜【ねこの福ちゃん】〜
 長い雨雲からお日様がやっと顔を出した朝、ねこの福ちゃんは何回もくしゃみをしました。「くしゅん、くしゅん。今日はくしゃみがよく出るな」。福ちゃんは鼻を白い手で掻きました。福ちゃんは黄色の縞で雄のトラねこ、優しいおばあちゃんの飼いねこです。
 ここに貰われて来る前、福ちゃんはおじいちゃんの飼いねこでした。まるでこどものように大事に飼われていました。

 おじいちゃんは福ちゃんが片手に乗るような小さいときに、貰ってきました。おじいちゃんは一人暮らし、元気なとび職人でした。今から三年前、病気で足が思うように動かなくなり仕事もできなくなったので、子ねこを近所の人から貰ってきました。子ねこが幸せになるようにと幸福の福をとって「福」ちゃんと名付けました。おじいちゃんは福ちゃんの「飼い主」「飼育係」「お父さん」「お母さん」役をしていました。寝るときはおじいちゃんと一緒の枕、おじいちゃんが寝返りをすると「にゃん」と上手にかわし、また布団の中に戻ります。おじいちゃんがトイレに行くと一緒についていき、トイレの蛇口から出る水を手でチャッ、チャッとひっかいて遊びます。おじいちゃんが「福、ダメじゃないか」と怒っても「にゃ、にゃ」と笑い遊んでいます。おじいちゃんは「しょうがないな」と、福ちゃんを抱いてやりました。でもいたずらが過ぎおじいちゃんが本気で怒ると、福ちゃんはゲージに入ってしゅんとしています。しばらくしておじいちゃんが「よし、もうするなよ」と許してくれると、「にゃー」と嬉しそう出てきます。
 ある日、おじいちゃんが福ちゃんを散歩に連れて行きました。公園でおじいちゃんが福ちゃんを下に降ろしてやると、福ちゃんは驚いて慌てて走って行ってしまいました。おじいちゃんは急いで福ちゃんを探しましたが、福ちゃんは迷子になってしまいました。おじいちゃんはとても心配し、近所に迷子ねこの張り紙をして探しました。翌日その紙を見た人が「福ちゃんが木の上で困っているようだ」と知らせてくれました。さっそくおじいちゃんは福ちゃんのゲージをもって木の下に迎えに行きました。福ちゃんはゲージに安心したように入り、おじいちゃんと一緒にうちに帰りました。
 おじいちゃんは福ちゃんに「福、怖かっただろう。おなかもすいたろう」と、福ちゃんの大好きな缶詰のごはんをあげました。
 福ちゃんとおじいちゃんは寝たりご飯を食べたり、いつも一緒でした。でも、おじいちゃんの病気が悪くなり、とうとう入院しなければならなくなりました。おじいちゃんは福ちゃんが一人ではかわいそうなので、誰かやさしい人に貰ってもらえるようにと願い、貰ってきた里親に返しました。
 一年経っておじいちゃんは自分の病気やこれからのことも心配でしたが、福ちゃんのことはもっと心配でした。そして、友達に電話をかけ、福ちゃんが里親に帰ってからどうなったか聞きました。福ちゃんは優しいおばあちゃんに貰われていったことがわかりました。おじいちゃんは安心し、歌の先生と一緒に福ちゃんの幸せを願いしました。

  「くしゅん、変だなー。またくしゃみが出た…。誰か僕のことを話しているのかな? そういえばおじいちゃんは元気かな」と福ちゃんは窓の外を見ていました。そのとき、「福ちゃん、ご飯ですよ」とおばあちゃんが呼んだので、「にゃーん」と嬉しそうにおばあちゃんに飛びついていきました。おしまい。


 後日、お嫁さんからお礼の手紙がきました。

 本年はCOVID-19感染の影響で第13回講習会が中止となりましたが、2021年3月に改めて、オンラインで講習会を開催する予定です。

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