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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.89
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2020  89
よもやま話
アンサングシンデレラ
市立芦屋病院
橋本 百世

 初めて病院薬剤師が主人公のドラマ。知られざる薬剤師の仕事。はっきり言って、ここまで注目されるとは思っていなかった。普段ドラマを見ない私は初め義務感でみていたが、結構面白い。現実との違和感はあるが、薬剤師が活躍するドラマとして視聴者が面白いと感じられるようによくできていると思う。「もっと効率よく仕事しろ」とか、在宅看取りの場面で「ちゃんとレスキュー使って」とか、「ここで鎮静はないよ」とか突っ込みながら見ていると、家族に「ドラマに集中できない」と突っ込まれ、黙っていると「物足りないから、やっぱり突っ込んで」と言われたりしつつも、批判するというより許せる範囲だ。主人公は一人一人の患者に入れ込みすぎで薬剤師としての範疇を外れているようだが、ふと我に返ると、自分も薬だけではない関わりは多々ある。とくに治療の初めから看取りまでかかわるがん患者さんの場合は。
 ある化学療法中の患者さんに「困ったことはないですか?」と聞くと、「副作用はないが、お金がないのが困っている」と。どうやら身寄りなし高齢一人暮らし。社会的苦痛であると判断し緩和ケアチームの頼りになるMSWに相談。そして、次に訪問すると「飼っている猫をどうしようか?自分が死んだら野良にするしかない。」とのことで、猫好きの私としては聞き捨てならない。里親サイトと市役所の相談窓口を紹介。次は「退屈している、毎日3、4冊読んでいたが図書館にいけないので困っている」と、これは生き甲斐の喪失、つまりスピリチュアルペインと判断。私も好きな小説の続きが読めないまま一生を終える苦痛は想像できる。予約して借りてきましょうか?っとここまでくると、さすがに薬剤師ではなく、近所のおせっかいおばさんレベルか?と思ったが、相手も遠慮されることなく読みたい本のリストを書いてくれた。それから2週間に一度は図書館に通って本を又貸し。次の悩みは「ここではお酒が飲めない」と。ここでは飲めない、でも緩和ケア病棟では飲めるんです、緩和ケア病棟というのは…と説明をすると、「胃がんステージW、自分の予後は1、2年、最後は緩和ケア病棟で迎えたい」と病状を受け止め、ACPのようなものを実施。それからも「鰻が食べたい」とのことで市内のウナギ屋さんのリストを渡すと、「一時退院の時に出前とるのが今から楽しみ」と副作用で食欲不振があったが、自宅では食欲増加。再入院時に「時計を家に忘れてきた」と、これはせん妄のリスク因子であるため、せん妄予防のため置時計を貸し出し。
 一方で、がん治療の方は問題なく経過し、原発巣の手術ができることに。そしてなんと、肝臓の影が転移でないと判明し、完治も見込める可能性がでてきた。しかし、患者の価値観と状況はみな同じでない。「普通なら治ると言われて喜ぶべきなんでしょうね。ホスピスに行く覚悟をしていたのに180度変わって、すぐに受け入れられない。あと1年のつもりで金の調節もしていた。治療をやめたらホスピスに行けますか?食べることが一番重要。胃をとったら美味しいもんが食べれなくなる。長生きしたいのでなく、楽しく生きたい。」と。手術したほうがいいとは単純に言えない、その人の大切にしているものを失ってまで長生きすることの辛さ。内心ちょっと切ない気分になりながらも、その気持ちをそのまま受けとめた。そして、薬袋の隙間からそっといつものように図書館から借りてきた本を渡した。悩みながらも、前を向いて生きて欲しいという気持ちを込めて。「ありがとう、一番楽しみにしてた本だ」と。
 薬だけじゃなくその先の患者さん一人一人をみるのがアンサングシンデレラの葵みどりのスタイル。ドラマのようにドラマチックではないが、これからも自分のできることをして最後まで寄り添っていきたいと思う。

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