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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.89
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2020  89
Journal Club
COVID-19パンデミック時のデキサメタゾン制吐予防の削減:
カナダ、オンタリオ州からの推奨事項
国際医療福祉大学病院 薬剤部
佐藤 淳也

Robert C Grant, Coleman Rotstein, Geoffrey Liu, Leta Forbes, Kathy Vu, Roy Lee, Pamela Ng, Monika Krzyzanowska, David Warr, Jennifer Knox
Reducing dexamethasone antiemetic prophylaxis during the COVID-19 pandemic: recommendations from Ontario, Canada
Support Care Cancer. 2020 Oct;28(10):5031-5036. doi: 10.1007/s00520-020-05588-6. Epub 2020 Jun 30. PMID: 32601854 PMCID: PMC7324309


【目的】
 がん患者は感染のリスクが高く、COVID-19に対しても易感染や重症化のリスクがある。がん化学療法では、制吐剤としてステロイドが一般的に使用される。しかし、ステロイドの使用は、ウイルス感染症および呼吸器感染症のリスク増加に関連する。本論文では、悪心と嘔吐の制御を維持しながら、COVID-19パンデミック中の化学療法中の制吐剤としてのステロイド使用を最小限に抑える可能性を提案した。
【方法】
 腫瘍専門医、感染症医、薬剤師などからなる専門家パネルが招集され、COVID-19パンデミック中の固形腫瘍に対する化学療法時の制吐療法に対する修正を検討した。体系的な文献検索を実施して、COVID-19と制吐薬に関する最新かつ全ての文献を評価した(キーワード:“COVID” or “SARS-COV-2” or “coronavirus” and “Cancer” and “antiemetics” or “nausea” or “vomiting” or “emesis”, 検索日; 2020.4.15, PubMed)。しかし、COVID-19と制吐剤の使用に関するデータが少ないため、推奨事項はパネルの意見とCOVID-19パンデミックの前に開発された制吐療法ガイドラインに基づいて作成した。
【結果】
 COVID-19パンデミック下において、どのように制吐剤を使用すべきか?という臨床疑問に対して、パネルは、各種データがステロイド使用量とウイルス感染症および呼吸器感染症との用量依存的な関連性を危惧しているため、推奨事項はステロイド使用の最小化に向けた以下の提言を行った。
推奨1;ステロイドの最小有効用量を使用する。例えば、高度催吐性レジメン投与下において2日目以降使用するデキサメタゾンは、削除する。軽度催吐性レジメン投与下において、デキサメタゾンの代わりに5-HT3拮抗剤のみを使用するなど。
推奨2;推奨レジメンにもかかわらず悪心・嘔吐が発生した場合は、ステロイドの用量を増やす前に、NK1拮抗剤やオランザピンなどの非ステロイドを増やすか追加する。
推奨3;以前のサイクルで悪心・嘔吐が発生しない場合は、ステロイドを減量する。
【結論】
 ステロイドは、インターロイキンや核因子カッパBなどの炎症誘発性遺伝子の遺伝子転写を変化させることにより、免疫抑制を引き起こす。また、ウイルスに対する免疫応答に不可欠なT細胞とB細胞も枯渇させる。COVID-19では、リンパ球の活性が重要で、リンパ球減少症がより疾患の重症化と関連がある。現在、ガイドラインでは、急性呼吸窮迫症候群や慢性閉塞性肺疾患の悪化などの患者固有の症状がない場合に、COVID-19に関連する呼吸不全を治療するためにステロイドを使用しないことが推奨されており、制吐療法におけるステロイドの使用もこれらの概念と一致する。しかし、推奨によるステロイドの減量は、性別、年齢、過去の嘔吐経験などのリスク因子に基づいて慎重に行うとともに、オランザピンなどの代替薬の副作用にも注意を払うべきである。
【コメント】
 著者らは、デキサメタゾンの減量について、12mg以下の用量では、効果の低減があることを過去の試験結果をもとに考察している。しかし、これ以上の具体的な最小有効量は言及していない。さらに、NEPA(半減期がアプレピタントより長いNetupitantと長時間作用型5-HT3拮抗剤であるパロノセトロンの合剤;本邦未発売)が推奨されている点は、本邦の実地医療に本論文の推奨が当てはまるのか不安が残る。これまでエビデンスの蓄積されてきたがん化学療法の制吐療法でのなかで、NK1受容体拮抗薬では相互作用で、パロノセトロンでは有効性が維持される点でsteroid sparingが提唱されてきた。しかし、COVID-19がこれを後押しする可能性が今回示された。

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