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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.87
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2020  87
よもやま話
バスクチーズケーキは緩和ケア病棟看護師のストレスを和らげるか?
京都民医連中央病院 緩和ケア内科
荻野 行正

 メンタルヘルスについて、看護職はハイリスクグループであると言われていますが、日常的に死にゆく患者のケアを行う緩和ケア病棟では、看護師のストレスはさらに大きく、より一層のメンタルヘルスケアが求められているのではないでしょうか。
 今回、当院の緩和ケア病棟看護師の心と体のストレスを、手作りバスクチーズケーキでどれくらい和らげることができるかを調査したところ、興味深い結果が得られたので報告します。
 対象は、当院の緩和ケア病棟(21床)の看護師25名。
 方法は、(表1)のレシピで作ったバスクチーズケーキを緩和ケア病棟の看護師に差し入れ、食後にアンケートに回答してもらい、食べる前と食べた後のストレスの程度をNRS(Numerical Rating Scale)で評価してもらいました。すなわち、
・この1週間の気持ちのつらさを平均するとどの程度だったでしょうか?
 つらさはないときを0、最高につらいときを10として、NRSでお答え下さい。
・この1週間の体のつらさを平均するとどの程度だったでしょうか?
 つらさはないときを0、最高につらいときを10として、NRSでお答え下さい。
・バスクチーズケーキを食べてから、気持ちのつらさと体のつらさに変化はありましたか?
 食べた後のつらさの程度をNRSでお答え下さい。
という質問項目です。
 結果、19名の看護師から回答を得ました(回答率76%)。「気持ちのつらさ」および「体のつらさ」の平均±標準偏差の食前後の数値は、「気持ちのつらさ」も「体のつらさ」も、食後にNRSが増えたという回答はなく、「気持ちのつらさ」のNRSは6.4±2.6から3.8±2.3に、「体のつらさ」は6.2±2.5から4.0±2.1にそれぞれ減少しました。(表2)
 さらに、「もう一度、バスクチーズケーキを食べてみたいと思いましたか?」という質問には全員が「思う」と答えていました。そして、「どれくらいの頻度で食べてみたいと思いますか?」との質問には、「週に一度」が12人(63.2%)、「月に一度」が4人(21.1%)、「毎日」が3人(15.7%)でした。

バスクチーズケーキとは?
 料理研究家のかのうかおりさん(『カオリーヌ菓子店のチーズケーキ』主婦と生活社. 2018)によると、バスクチーズケーキは、スペイン北部にあるバスク地方のサン・セバスチャンのバルでワインとともに供されているとのこと。従来のベイクドタイプチーズケーキは、160?170℃で80?50分程度焼きますが、バスクチーズケーキは、220℃以上とより高温で焼きます。しかし、焼き時間が30分程度と短いので、表面は焦げていても中はクリーミーでさっぱりした食感になっているのが特徴です。日本では、バスクチーズケーキは近年コンビニエンスストアで売り出されて人気が出てきたようです。
 色々なレシピの中から作りやすさとおいしさを追求した結果(表1)のレシピに至りました。(図1、図2)

なぜ手作りなのか?
 市販の菓子を差し入れても喜ばれるので、市販のものでもストレス軽減効果はありそうです。しかしながら、病棟の医師、それも男性が、今はやりのバスクチーズケーキを手作りしたという、二重三重の「意外性」という付加価値がストレス軽減効果に寄与している可能性はありそうです。つまり、この「意外性」が話題となり、「え?!?あの先生がバスクチーズケーキを作ったのぉ?」、「意外とおいしいね」などと休憩室での会話を盛り上げ、ストレス発散効果を助長しているのかも知れません。
 平野秀典さん(『お客様の感動を設計する ハッピーエンドのつくり方』ダイヤモンド社.2005)によれば、実感が期待通りであれば満足感が得られるだけだが、実感が期待を上回ると、感動、感激、感謝の気持ちが生まれてくるのだそうです。また、ガス・ヴァン・サント監督の映画『小説家を見つけたら』(2000年.アメリカ)の中で、処女作を出しただけで引きこもってしまった小説家ウィリアム・フォレスターが、文才のある少年ジャマール・ウォレスに向かって、こんなことを言う場面があります。「女の子を喜ばせるには、予期せぬ時に、予期せぬ贈り物をすることだ」と。これらの心理的効果から類推すると、男性の病棟医が手作りしたバスクチーズケーキを気まぐれに差し入れることで、実感が期待を上回り、それによって感動や感激することが、ストレス軽減に寄与しているのではないかとも考えられます。

まとめ
 手作りバスクチーズケーキは緩和ケア病棟看護師の心と体のストレスを軽減する実効力をもっているようです。ストレスマネジメントの観点からすれば、手作りバスクチーズケーキを差し入れることは、実際に問題に対応する行動ではなく、問題場面を回避した、いわゆる「情動焦点型コーピング」にしか過ぎないかもしれませんが、実効性、速効性がありそうなので試してみる価値はあるかもしれません。
 バスクチーズケーキが緩和ケア病棟看護師のストレスを本当に和らげる効果があるのかどうか、貴施設でも「追試」されることを願っています。

(表1)バスクチーズケーキのレシピ

【材料】直径12cmの底がとれる丸形1台分
・クリームチーズ … 200g
・グラニュー糖 … 70g
・卵 … 2個
・薄力粉 … 大さじ3/4
・生クリーム … 200ml

【下準備】
・クリームチーズは耐熱ボウルに入れ、ラップをかけて電子レンジで40秒〜1分程度加熱してやわらかくする。
・型に、クシャクシャに丸めてから広げたオーブンシートを敷く。
・オーブンは220℃に予熱。

1.柔らかくなったクリームチーズに砂糖を入れてすり混ぜる。
2.次に、ほぐした卵(1個ずつ)を加えて、泡立て器でグルグル混ぜる。
3.ここに、茶こしでこした薄力粉を加えて、また混ぜる。
4.さらに生クリームを加えて、よく混ぜる。
5.目の細かいザルでこして型に流し、220℃に予熱したオーブンで約30分焼く。
6.粗熱がとれたら型から出して、冷蔵庫でひと晩冷やす。


(表2)バスクチーズケーキを食べる前と食べた後の
「気持ちのつらさ」および「体のつらさ」のNRSとその変化
 気持ち
食前NRS6.4(±2.6)6.2(±2.5)
食後NRS3.8(±2.3)4.0(±2.1)
NRSの変化2.6(±1.8)2.2(±2.0)


(図1)焼き上がったバスクチーズケーキ
側面の焼きむらが印象的


(図2)切り分けたバスクチーズケーキ
塩や胡椒をかけても意外においしい

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