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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.87
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2020  87
Journal Club
進行がん患者への緩和ケアでのコーピングの役割に関する総説
名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻高度実践看護開発学講座
佐藤 一樹

Greer JA, Applebaum AJ, Jacobsen JC, Temel JS, Jackson VA.
Understanding and Addressing the Role of Coping in Palliative Care for Patients With Advanced Cancer.
J Clin Oncol. 2020 Mar 20;38(9):915-925. doi: 10.1200/JCO.19.00013. Epub 2020 Feb 5.


【目的】
 進行がん患者・家族に対するコーピングについてエビデンスを記述する。
【方法】
 がん患者のコーピングの研究は膨大であるため、レビューの焦点(scope)を進行がん患者とその家族を対象とする研究とした。文献レビューから、コーピングと他の概念との関連、緩和ケアでのコーピング支援、研究の限界と今後への示唆を記述した。
【結果】
<進行がん患者でのコーピングの関連要因>
 がんの診断前からコーピングは始まり、心身の状況や病気の進行や予後説明などをきっかけとしてがんの軌跡のなかで患者のコーピングは動的に変化する。
 がん患者のコーピングとがんの再発や予後といった客観的アウトカムとの関連は一貫したエビデンスはない。症状は、コーピング能力との関連や回避的コーピングとの負の関連が示されている。QOLや心理アウトカムは、回避的コーピングとの負の関連が示されている。また、媒介因子としては、症状とQOLの関連や予後認識と心理アウトカムとの関連での相互作用が示されている(例:コーピングが高いと症状増加とQOL悪化の関連が弱まる)。宗教的コーピングは、QOLや精神健康の改善や終末期医療の意思決定とも関連する。
<緩和ケアでのコーピング支援の役割>
 早期からの緩和ケアの推進により緩和ケアのなかでコーピング支援の役割が増している。進行がん患者対象の早期緩和ケアの無作為化比較試験での緩和ケア外来での診療内容は、症状緩和と同程度にコーピング支援が実施されていた。がん医療と緩和ケアの統合では、症状緩和・QOL改善、コーピングや適応の支援、患者・腫瘍医関係の調整が緩和ケア医療者の補完的役割となるだろう。
 進行がん患者のコーピング支援は、一律の支援ではなく患者の機能状態に応じたコーピング方法の導入が必要である。コーピング支援の方法として、認知型(気分転換、認知的再評価、マインドフルネス)、行動型(問題解決、ソーシャルサポート希求、行動活発化)、心理・生理型(生理的介入、心理的介入、Flow:楽しい活動に没頭)、実存・スピリチュアル型(宗教的介入、ライフレビュー、意味:人間的成長や価値観を高める、受容)などがある。しかし、コーピング支援の医療者教育のエビデンスは乏しい。
<コーピング介入のエビデンス>
 緩和ケアでのコーピング支援の効果に関するエビデンスは乏しい。Temelらの早期緩和ケア介入試験では、早期緩和ケアにより問題焦点型コーピングが改善し、問題焦点型コーピングの向上はQOLや抑うつの改善を媒介した。また、チャプレンによる介入研究では適応の向上が示された。
<進行がん患者の家族でのコーピング>
 進行がん患者の家族の問題解決型コーピングは肯定的な期待感や希望を保つことと関連し、情動焦点型コーピングは苦痛、負担感、精神疾患罹患と関連した。また、患者のコーピングと家族のアウトカム、家族のコーピングと患者のアウトカムとの関連も示されたことから、患者と家族をペアでコーピング支援の対象とする必要性が示唆される。
<研究の限界と今後への示唆>
 進行がん患者のコーピングの研究は、評価尺度、横断研究のデザイン、交絡に限界が大きい。
【結論】
 早期からの緩和ケアの推進により、進行がん患者・家族に対するコーピング支援がその疾患のすべての過程で必要となることに注意すべきである。コーピングはQOLなどの重要なアウトカムと関連し、コーピング支援で緩和ケア医療者は中心的役割を担いえる。
【コメント】
 Temelらによる進行がん患者を対象とした早期緩和ケア介入試験で、緩和ケアの診療内容でコーピング支援の役割が大きく、またコーピングがQOLや抑うつのアウトカム改善の媒介因子となっていたことから、進行がん患者への緩和ケアでのコーピング支援の重要性は高まっている。進行がん患者・家族対象のコーピング支援の介入研究のみならず、ルーチンでの患者・家族のコーピング評価による臨床的効果や医療者対象のコーピング教育介入効果など今後の研究が求められる。

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