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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.85
日本緩和医療学会ニューズレター
Nov 2019  85
巻頭言
カナダの大麻の合法化と規制について正しく理解する
獨協医科大学医学部 麻酔科学講座
山口 重樹

 近年、大麻に関する規制について世界中で様々な議論が繰り返されている。この議論は、医療用のみならず嗜好用の大麻にも及んでいる。また、大麻に関する規制は国によって様々で、本邦においてその詳細について熟知している人は少なく、多くの混乱が生じている。
 本邦では、1948年に制定された「大麻取締法」の第3条に、「大麻取扱者(都道府県知事の免許を受けて、大麻を研究する目的で大麻草を栽培、又は大麻を使用する者)でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と記載されおり、嗜好目的はもちろんのこと、医療や研究目的であっても、大麻の使用は禁止され、厳しい規制と取り締まりがこれまで維持されている。
 そのような状況の中、本邦においても、大麻(大麻から精製される医薬品あるいは合成カンナビノイドも含む)の医療目的の使用を認めるべきという意見が出ている。海外において、痛みの緩和、食欲不振の改善などに大麻が有効であるというエビデンスが示されてきたからである。しかしながら、現時点で本邦においては、このようなことを議論する以前に、医療者及び研究者は世界における「大麻」の規制状況についても正しい知識を習得すべきである。
 今回、カナダ政府の機関である Health Canada(カナダ保健省)を訪問し、大麻の合法化と規制の取り組みについての経緯と詳細を知ることができたので紹介する。カナダ政府は、先進国としては初めて(世界ではウルグアイが最初の国)、2018年、嗜好品としての大麻の所持・使用を合法化した。このことは、ジャスティン・トルドー首相が大麻の所有、使用の合法化を選挙公約(2015年)に挙げたことから始まっている。目的は、犯罪組織への資金源断絶のほか、多くの国民が非合法で使用していた大麻の生産、流通、消費を規制下に置くことであった。その背景に、カナダでは一世紀にわたり大麻を非合法としてきたが、未成年者や社会の秩序を守ることができなかった事実もある。合法化により、「大麻の生産、質の担保、流通、消費などのすべてのことにおいて秩序をもたらすことができる」という大胆な発想である。
 カナダにおける大麻の合法化と規制に関する最新の法律「The Cannabis Act」は、突然に制定されたわけでなく、カナダ政府及び国民が長年にわたって大麻の医療用での有益性、嗜好用としての規制について絶えず議論を続け、修正が加えられたものである。この法律の施行によって、医療用にのみ限定していた大麻の使用が、嗜好用としても使用できるようになった(なお、カナダ政府のいう大麻とは、乾燥大麻、食用大麻、大麻抽出物、オイルなどの総称である)。罪を罰するという考え方から、公衆衛生上の健康被害を最小限に抑えるという考え方(パーム・リダクション)に重点を置くためであったとも言われている。「The Cannabis Act」の骨子は大麻の合法化と規制を同時に達成することで、以下の4つの柱を基本にしている。

  1. 教育:大麻による健康と安全性へのリスク意識を向上させる。その内容は、運転への影響、大麻の健康被害、未成年の使用による問題、妊婦及び授乳婦の使用による問題、大麻の急性中毒などが含まれている。
  2. 予防:大麻の有害な使用の予防と健康意識を促進させる。これまでに行ってきた禁煙対策が喫煙による健康被害を軽減したという成功体験を基に、大麻による健康被害も同様の方法で予防しようとしている。
  3. 規制:大麻の厳密な管理と未成年者の入手の回避を徹底する。大麻の厳密な管理には、個人が所持可能な量、家庭内で栽培可能な量、厳密な大麻の質の担保、厳密な大麻の流通管理などが示されている。そして、18歳未満への大麻の譲渡、売買は厳密に禁止されている。
  4. 監視:大麻の使用行動と生産体制を監視する。全国規模の大麻に関するモニタリング(監視)と研究を行い、大麻の使用に関する詳細情報(使用頻度、製剤の種類、使用方法、使用目的など)及び大麻の潜在的な害と医薬品としての使用に関する新しい科学的根拠の収集を行っている。
 このように、カナダの大麻の合法化と規制は、一時の流行に後押しされたものではなく、長年にわたる多くの議論、そして、今後の方向性を見据えたカナダ政府及び国民の確固たる意志の下、決定されたものである。筆者は、本邦における大麻の規制緩和を推進、もしくは否定する論者ではなく、医学及び科学の側面から学問的に中立の立場で本稿を執筆した。そして、筆者らは本邦の「大麻取締法」を遵守する立場であり、法律の改定を望んでいるわけではない。筆者が私見を求められるなら、カナダ政府が現在行っている国家的な調査と研究の結果を待ってから、本邦における大麻の医薬品としての使用についての議論を開始しすべきと答えたい。
 また、最後にあえて本邦の「大麻取締法」の解釈を追記する。本邦の法律では、国外においても大麻をみだりに、栽培したり、所持したり、譲り受けたり、譲り渡したりした場合などに罰する規定があり、日本国籍を有する者については、大麻が合法の国における所持であっても、日本の「大麻取締法」において罰せられる可能性がある。
 カナダ保健省の訪問及び本原稿の執筆に尽力していただいた山田恵子氏(カナダMcGill大学)に感謝申し上げる。

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