line
Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.84
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2019  84
よもやま話
英国への長期出張で考えたこと
(4)雑記
東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野
宮下 光令

 King's college London, Cicely Saunders Instituteから帰国して1年を過ぎたので、この連載もそろそろ終わりにしようと思う。今回は英国で見聞きしたことで印象に残ったことを順不同で箇条書きで書いていきたい。いろいろ間違っているかもしれないが、ご容赦いただきたい。

  • 研究所全体のミーティングは月に1回。勉強会などもあまり多くない。各研究グループのミーティングや個別指導などが多い印象。
  • ジャーナルクラブは月に1回。あらかじめ配布された1本の論文についてディスカッション。方法論の議論が多く、通常行う冒頭の論文の説明はほとんどない。ディスカッションをまとめて(今はなき)Pubmed Commonsにアップしていた。
  • 費用対効果、QALYとEQ-5Dの是非。EQ-5Dが緩和ケアに適さないというのは業界の共通認識だが、POSを用いる方法がCSIで検討されており、そのほかにもICECAP、ASCOTなど英国発のツールがいくつか検討されている。世界標準に育つだろうか?
  • Complex interventionとmixed method。方法論はどんどんアップデートされている。多くの緩和ケアの介入はcomplex intervention。看護介入もcomplex intervention。
  • compassionate careという言葉をどこでも聞いた。イマイチ意味がわからない。
  • Patient Public Involvement(PPI)という、患者家族市民に研究計画段階から参加してもらうという取り組みがなされている。CSIでもDragon's Denという企画で研究者が自分の研究のプレゼンをして、協力してくれる患者らを募るという企画をしていた。Dragon's Denというのは日本で過去に放送されていた「マネーの虎」をパクった英国のテレビ番組から来ているそうだ。PPIは日本でもこれから行われていくようになるだろう。
  • King's全体の教育。外国人向けの英語講座、研究マネジメント、プレゼン法など誰でも受講できる少人数講座が充実。e-learningによる勉強法、研究法などのリソースも充実。おそらく博士課程の学生のアルバイトなど学業や統計ソフトの使い方などの相談に乗ってくれるサービスなどもある。
  • 講義は全部を話さない。動機付けだけいう感じ。隣の人とディスカッションなどさせる。勉強は自分で帰ってするのだろう。
  • こちらの人は帰るのが早い。18時には研究所には誰もいない。朝が特に早いわけではない。土日は出てこない。しかし、仕事は終わっている。
  • 研究グループの打ち上げに参加させてもらったが、レストランの食事代が研究費から出るらしい。いいなあ(本当か?)
  • 何でも録音する癖がついた。Web会議などは録画する。帰国してからは学生に個別指導のときなど録音してもらうことにしている。まじめに毎回録音していた卒研生は今年の学術大会で最優秀演題賞をもらった。この学生は毎回、指示通りのものが提出されていた。
  • 研究成果を広めるならFacebookよりTwitter。という講義を受けた。Twitterをはじめたが、Palliat MedやJPSMをフォローしておくと最新の研究がどんどん流れてくるのでいい。
  • 修士課程は1年で取れる。2年かけてというのも可能。2週間のコースが6〜8回くらいと修士論文。コースのときだけロンドンに来て、地元にもどったり出身国に戻ったりする人もいる。学費は高く、1年で350万円。世界から集まって30人くらいだが、医師が圧倒的に多い。
  • 博士課程の学生はみな優秀。博士やポスドク、研究補助員の層が厚く、主戦力になっている。博士も学費は高いが、みんなスカラーシップを取っているようだ。
  • 大学にもよるようだが、博士は1年の終わりくらいにvivaという関門があって、そこで研究計画などが通らないと退学になるようだ。海外から来ているとここで帰国。日本では馴染まないだろうが、いい制度だと思う。
  • 看護の博士課程は教員になる目的の人もいるが、臨床をもっと高めるためという人も結構多い印象。
  • ランカスター大学に訪問。EAPCの理事長だったSheila Payne教授やPalliative Medicineの編集長だったCatherine Walshe教授らと会う。この2人のバックグラウンドは看護師。ランカスター大学は医学部はあるが看護学部はない。看護師出身の教授が医師や他大学出身の看護の大学院生などを教えている。
  • CSIの緩和ケアの教授はHigginson先生(医師)とHarding先生(社会学者)。講師はEvans先生(看護師)。そのほかスタッフは医師数人に理学療法士、人文学者、統計学者、社会学者など。クリニカルスタッフは別にいる。講義を聞いてるだけでは誰が医師かわからない。
  • ホスピス2カ所、大学病院1カ所しか訪問していないが、さらっと見た限りでは日本と大差ない印象。ホスピスは独立型で地域緩和ケアチームを持っている。このモデルは日本でももっと増えるといいと思う。
  • 終末期医療関係の研究費総額はけた違い。NCRIパートナーシップという助成団体の集まりで4.5億円くらいがpalliative and end of life care research。そのうちMarie Curie財団は年1.5億。Wolfson財団が1.8億。ここまでで6.3億だが、日本の半分の人口なので日本だったら12憶か。SheffieldのIngleton先生は生涯で35億のグラントを取ったと。お会いした看護師のSeymour先生は10億と。緩和ケア系の看護師の先生は看護のグラントには出さないそう。規模が小さいから。1つのグラントで何千万から億も多く、それらでポスドクなどを雇用する。1つ私も研究費審査をしたが、ポスドクの賃金が700万とか。これら以外にスカラーシップなどたくさんある様子で、日本で夜中まで研究する気がうせる。考えてはいけない…
  • 大学ランキング対策はしているのか?Research Excellent Frameworkという国内の大学評価でいつも競わされているから対策は必要ない。このREF対策でいつも鍛えていることが英国の全体の底上げをしている。ランキングが高くなると、たとえば看護学部の教員の数を増やすように大学に要求できる。
  • 臨床での看護学部教育は教育専門の人が大学に雇われている。日本もそのほうがいいと思うが…
  • Clinical Academic NurseというNHSが比較的最近始めたアカデミアと臨床のクロスアポイントメント制度が動いている。研究と臨床をつなげるために。私のメンターのEvans先生はこの制度で週に2日臨床に出て看護師の指導などしているようだ。
  • 英国で学んだことを日本でどう生かそうかずっと考えていた。少なくとも医療に関しては日本は「ヒエラルキー」と「利権」の国だという結論に達した。これについて書くと単なる愚痴になるのだが、よく言われるようにこうやって日本ってどんな国か考える時間があるのも海外にいくことのメリットである。
 ここに書いたことの多くが渡英中にFacebookに書き込んだことをもとにしています。Facebookの日記は写真なしで日本語だけを抜き出して私の個人Webサイトに載せてあります。http://plaza.umin.ac.jp/miya/の「雑多」というページです。

Close