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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.83
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2019  83
よもやま話
英国への長期出張で考えたこと
(3)OACC、IPOS、ルーチンデータ収集と緩和ケアの質評価
東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野
宮下 光令

 前号で緩和ケアのcomplexityについて書いたが、今回はcomplexityを頭文字の1つに取ったOACC(the Outcome Assessment and Complexity Collaborative)プロジェクトから始めようと思う。ひところ日本でもSTAS-Jを用いたクリニカル・オーディットが少し流行ったが、OACCはその進化バージョンである。進化のポイントは、まず、医療者が評価するSTAS-Jではなく、原則として患者が評価するIPOS(Integrated Palliative Outcome Scale)を用いることである。OACCプロジェクトはこの患者評価を用いて患者を定期的にアセスメントし、その集計・分析を通してケアの質保証と質改善を行うものである。基本となるツールはIPOSとオーストラリアで開発されたPalliative care phase(英国ではPhase of illness)という患者の状態を安定期・不安定期・臨死期などに分類する1項目の尺度とAKPSというオーストラリア版Karnofsky Performance Scaleである。これはCSIで開発され、Hospice UKによって普及活動が行われ100以上のホスピスで活用されているそうである。私が訪問した2つのホスピスでもOACCプログラムを導入しており、話を聞いた質管理の責任者も大変有用であると評価していた(そういう人がいる時点で日本とは違うなあと思う)。
 OACCのデータ収集の中核をなすのがIPOSである。IPOSはSTAS-Jの進化版であり、IPOSは項目がより洗練された。IPOSは長らく日本語訳されてこなかったが、最近、日本語版の信頼性・妥当性の検証が終了した(Sakurai H, 2019, JJCO)。IPOSの使用には原則としてCSIにある事務局への登録が必要である(https://pos-pal.org/)。ただ、英語だけでは日本人のユーザーには厳しいので、IPOS日本語版のホームページのパイロットバージョンを作成し、IPOSや簡単なマニュアルのダウンロードができるようにした(http://plaza.umin.ac.jp/pos/)。今回のレターにIPOSの詳細について書くスペースはないので、別途雑誌などで紹介記事を書こうと思う。また、IPOSやOACCプロジェクトについては2019年7月13日、14日に開催される日本ホスピス緩和ケア協会年次大会で緩和ケアデータベース員会/質のマネジメント委員会によって「IPOS日本語版を用いた緩和ケアの質の維持・向上」という分科会を予定しているので協会の会員で関心がある方はぜひご参加いただきたい。このワークショップはIPOSの宣伝のためのものではなく、OACCのような臨床でルーチンでデータを収集していくことによって緩和ケアの質の維持・向上を図るという活動の世界的な展開について紹介し、議論したいと考えている。そのツールの1つがIPOSというだけである。
 現在、世界で緩和ケアの臨床データをルーチンで収集し、質の向上に役立てようという取り組みが行われている。オーストラリアのPCOC(Palliative Care Outcomes Collaboration)が有名でOACCをはじめとした各国の取り組みのモデルになっている。米国では、まずどのようなデータを収集するべきか(=緩和ケアで大切なデータとは何か)を明らかにしてベンチマーキングにつなげるMeasuring What Mattersプロジェクトが進んでいる。それぞれで目的は若干異なるが、目指しているのはルーチンでデータを収集し質を向上させることや、専門的緩和ケアをきちんと評価していくことなどである。そのためにはIPOSなどの評価尺度の標準化も重要な問題であり、カナダの研究者を中心に国際的に緩和ケアの臨床でルーチンで患者から収集する評価尺度の標準化を図るようなプロジェクトも進んでいる。このプロジェクトは現在の臨床では100以上の尺度が利用されているが、いくつかに絞ったほうが今後の緩和ケアの研究の発展にはいいだろう、という考えであり、北米はESAS、欧州やその他の国はIPOSあたりに収束するのではないかと個人的には予想している。臨床データが人工知能などを活用して患者ケアに直接利用できる時代が来るのはそれほど遅くない未来だと思われる。その際にはデータが同じような方法で収集されているほうが望ましいだろう。
 また、日本緩和医療学会では2018年度に専門的横断的緩和ケア推進委員会に緩和ケアの質の評価WPGが立ち上がり、とくに専門的緩和ケアの質をどのように評価していくか検討がはじまった。この学会のプロジェクトでもPCOCをはじめとした海外の取り組みを参考にしつつ、日本の臨床の現状にあった緩和ケアの質評価の在り方を考えていくことになると思われる。

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