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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.83
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2019  83
Journal Club
ディープラーニングを用いたICU重症疾患患者の治療希望に関する記録の同定
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護
升川 研人

Chan A, Chien I, Moseley E, Salman S, Kaminer Bourland S, Lamas D, Walling AM, Tulsky JA, Lindvall C. Deep learning algorithms to identify documentation of serious illness conversations during intensive care unit admissions. Palliat Med. 2019 Feb;33(2):187-196. doi: 10.1177/0269216318810421. Epub 2018 Nov 14.


【目的】
 医療の質の測定・評価をミッションとしているアメリカの非営利団体であるThe National Quality Forum(NQF)では、「ICU入院48時間以内の治療に関する話し合いとその記録」は重要なQuality Indicatorの1つであると推奨している。治療の希望に関する記録は電子カルテ上に決まった形で存在しておらず、質評価の際に同定するためには多くの時間と労力を有する。本研究の目的は、治療希望に関する文書記録を電子カルテから同定するためのアルゴリズムを構築し、医療の質を評価することである。
【方法】
 アメリカで公的に利用可能な、約60,000のICU入院に関する匿名化データベースであるMulti Parameter Intelligent Monitoring of Intensive Care V(MIMICV)を利用した。本研究では、2008年から2012年にベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センターのICUに入院した患者の記録を用いた。4名の医療従事者が治療希望に関する記録を同定し、タグ付けをし、ゴールドスタンダードとなるデータセットを作成した。そして、NeuroNERという固有表現抽出のために開発されたニューラルネットワークを用いて、アルゴリズムを作成した。タグ付けされたデータを訓練データと性能を評価するためのテストデータにランダムに分割し、感度や特異度などを用いてアルゴリズムの性能を評価した。
【結果】
 402名分の治療希望に関する記録が用いられた。アルゴリズムの性能としては、F値0.92、感度93%、特異度91%であった。医療従事者が電子カルテから記録を同定する場合と比べて約18,000倍の速さで記録を同定することに成功した(医療者: 402秒/記録VS開発したアルゴリズム: 0.002秒/記録)。また、このアルゴリズムが同定した記録を実際に閲覧したところ、人間が同定することができていなかった記録もこのアルゴリズムは正確に同定していたことが分かった。
【結論】
 治療希望に関する記録を高い感度と特異度で電子カルテ上から同定・抽出するアルゴリズムを構築することに成功した。
【コメント】
 本研究では、近年話題になっているディープラーニングの手法を用いて、電子カルテ上の治療希望に関する記録を迅速に監査・フィードバックするシステムを提供した。しかし、単施設のデータを使用したアルゴリズムもあり、機械学習の性質上このアルゴリズムを他病院や他言語に用いることは難しいため注意が必要である。さらに、用いたデータが医師記録に限定されたものであるため、今後は看護師などその他の医療従事者の記録での学習・性能の評価が必要であろう。

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