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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.79
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2018  79
委員会活動報告
本学会におけるガイドライン事業の現状と今後の方向性
−ガイドライン統括委員会の取り組み−
ガイドライン統括委員会
委員長  中島 信久
(琉球大学医学部附属病院 地域医療部)
           副委員長  余宮 きのみ
(埼玉県立がんセンター 緩和ケア科)
           副委員長  細矢 美紀
(国立がん研究センター 看護部)

 診療ガイドライン(GL)は根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine: EBM)を実践するための手段の1つと位置づけられます。日本緩和医療学会では6つのガイドライン(@がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン、Aがん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン、Bがん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン、Cがん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン、D終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン、E苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン)と1つのクリニカルエビデンス集(がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス)を刊行し、定期的な改訂を行っています。また、患者・家族向けとして「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド」を刊行しています。このうち、Eについては今秋に改訂版を刊行する予定です。また、@、Dについては改訂に向けての作業が進行中です。
 こうした刊行物の作成とともに重要なのが普及啓発に向けた取り組みであり、これらはガイドライン事業の両輪と言えます。ガイドラインを新たに発刊あるいは改訂した際に、学術大会の企画セッションや教育セミナーなどにおいてガイドラインに関する解説(改訂のポイントを含む)を行っています。「そもそもエビデンスってどうやって決めるのだろうか?」「臨床判断とガイドラインの推奨が異なる場合の対応はどうすればよいのだろうか?」「ガイドラインの記載に従わないと法的な問題が生じたりするのだろうか?」などといったユーザーからの声にも応えながら、ガイドラインをより深く理解し、実臨床の現場でよりよく活用できるようになることを目指していきます。本年6月の学術大会では、昨年12月に改訂された消化器症状ガイドラインに関するセッション(「消化器症状ガイドライン2017 ここが変わった」)ならびに「診療ガイドラインをより深く理解する−ガイドラインの位置づけとガイドライン事業の今後の方向性」と題したガイドラインのあり方そのものを理解することを目的としたセッションの2つを行う予定です。これらのセッションへの参加を通してガイドラインの理解がさらに深まることを期待しています。
 つぎにガイドライン事業の今後の方向性について述べます。昨年、「ガイドライン委員会」を「ガイドライン『統括』委員会」に改称しました。その目的はこの委員会が各ガイドラインの刊行・改訂作業の核となるWPGとの連携を密にすることで、ガイドラインの発刊〜普及啓発活動〜ユーザーからのフィードバック〜次回改訂という流れを円滑にし、より効率的かつ質の高い作業を可能にすることにあります。ガイドライン作成プロセスを図に示します。この図の流れの中で、3つのポイントについて説明します。

 1つ目はガイドラインの刊行あるいは改訂作業を立ち上げる際、その最初の段階、すなわちスコープ(SCOPE)やクリニカルクエッション(CQ)を立てる時点から、患者、家族を含めた外部の関係者とともに話し合っていくことです。以前はガイドラインが一応の完成を見たのちに外部評価を受ける段階で患者団体の代表者にコメントをもらうことが一般的でした。先に記した方法を行うことにより、ガイドラインをより一層現場のニーズに近いものにすることが可能になると期待しています。
 2つ目は刊行したガイドラインの英文化です。これまでにがん疼痛、終末期輸液、呼吸器症状のガイドラインではその要約版がJ Palliat MedやJpn J Clin Oncolに掲載されており、泌尿器症状ガイドラインについては現在投稿中です。本学会が作成したガイドラインを広く世界の医療者に知ってもらうための重要な発信手段となります。今後刊行予定のガイドラインにつきましても、原則、英文化を続けていく予定です。
 3つ目はシステマティックレビュー(SR)を改訂WPG本体の活動から独立して行うチーム(SRチーム)を立ち上げることです。このチームが独立してレビューを行うことにより、ガイドライン作成の担当組織が「ガイドライン統括委員会」「ガイドライン作成グループ(=各ガイドラインのWPG)」「SRチーム」の三層構造となり、各組織が独立してそれぞれの作業を進めることで作成過程の透明性の確保が可能となります。SRチームについていえば、より質の高いエビデンスの構築につながりますし、ガイドライン刊行後の新たなエビデンスの集積にもタイムリーな対応が可能になると考えられるため、今後の重要な課題の1つです。ただし、ガイドライン事業を行っている多くの学会、団体においてもこのSRチームの立ち上げは“道半ば”といった状況です。その実現には相当な努力と時間が必要ですが、日本医療機能評価機構(Minds)のサポートを得ながら、そのための若手の人材育成にも注力していき、ぜひとも近い将来に実現させたいと思います。SRという取り組み自体が論文化につながるものであり、これによるインセンティブも得られます。リサーチマインドのある会員の積極的な参加を大いに期待します。
 ガイドライン事業に関するご意見、ご要望などがありましたら、事務局にお寄せ下さい。会員のみなさまの声を取り入れながら、より良いガイドラインの刊行を通して緩和ケアの質の向上を目指していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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