line
Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.79
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2018  79
Journal Club
高齢者のせん妄ケアの質の向上のための枠組み(特別寄稿論文)
国立研究開発法人国立がん研究センター
先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野
菅野 雄介
Inouye SK. Delirium-A Framework to Improve Acute Care for Older Persons. J Am Geriatr Soc. 2018 Mar;66(3):446-451.

 せん妄の先駆者であるInouye氏がせん妄研究を始めたキッカケや今まで行ってきたこと、今後の展望についてまとめている。
 Inouye氏は、家庭医の父を持ち、幼少の頃から父の勤め先に連れて行ってもらっていた。医学部に進学し、老年医学の道を歩んだのが1985年、その当時、高齢患者のせん妄に対し、上司に尋ねたところ、「高齢者が共通して起こることだから」と言われ、何もしないで様子を見るよう指導された。しかし、Inouye氏は、入院中にせん妄を発症した症例6名を丁寧にレビューし、症状には共通のリスク要因があると仮説を立て、また、せん妄のスクリーニングと診断ができる評価ツールとして、the Confusion Assessment Method(CAM)を開発し、せん妄による弊害を明らかにした。
 CAMは、診断精度が高く(感度94%〜100%、特異度90%〜95%)、現在までに原著論文が5千本以上出され、20カ国以上に翻訳されている。また、CAMは、様々な用途に合わせ妥当性が検証されており、家族が代理評価できるFAM-CAM、3分でせん妄を評価できる3D-CAM、せん妄の重症度を評価できるCAM-Sなどが開発されている。
 Inouye氏は、せん妄のリスク要因を同定し、予防することでせん妄の発症を減少させる非薬物療法による介入プログラム、the Hospital Elder Life Program(HELP)を開発した。HELPは、せん妄の発症と重症化を予防するだけでなく、転倒転落、在院日数や死亡率、医療費などで介入効果が検証されている。
 また、せん妄が認知症のリスク要因であるかどうかを、大規模前向きコホート研究、Successful AGing after Elective Surgery(SAGES)にて、明らかにした。SAGESは、70歳以上で認知症がなく、外科手術を受けた高齢患者560名を対象に、入院中せん妄を発症した患者(24%)と発症しなかった患者に分け、36カ月追跡した。その結果、せん妄の発症の有無にかかわらず、1カ月後には認知機能が低下し、2カ月後に回復したが、36カ月後では、せん妄を発症しなかった群はベースラインまで低下し、せん妄を発症した群はベースラインよりも低下した。せん妄を発症した群の認知機能の低下速度は、軽度認知症に類似していた。また、同調査から、バイオマーカーの指標からせん妄のリスク因子を探索的に明らかにする試みが行われ、せん妄を発症する患者では、インターロイキン-6が術後2日目に高値に、C反応性蛋白が術後、術直後、術後2日目で高値になる傾向があることが示された。また、アルツハイマー病のリスク因子として、アポリオ蛋白E-ω4は、せん妄との関連が示されなかった。
 Inouye氏は、最後に今後の展望として、普及啓発を挙げている。その理由として、身内のせん妄経験が語られ、父親が冠動脈バイパス術の術後にせん妄を発症した際、そこの医療者は、せん妄に関する知識やスキル、また、チームアプローチがなされていなかった。せん妄に関するエビデンスは日々集積されているが、臨床現場にどのように普及していくかが問われている。
【コメント】
 Inouye氏のサクセスストーリーというよりも、科学者としての飽くなき探求心、そして臨床家としての実践力・行動力に感銘し、今回紹介した。Inouye氏は、今後の展望として、普及啓発を掲げており、HELPの施設版や看護助手版など、様々なセッティングでせん妄ケアの質の向上を図るために取り組んでいる。わが国では、せん妄の非薬物療法による多職種協働プログラム(DELTA)の臨床試験が行われており(UMIN000030062)、今後の普及啓発が期待される。

Close