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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.79
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2018  79
巻頭言
地域共生社会の実現と緩和ケア
島根大学医学部附属病院 地域医療連携センター
医療ソーシャルワーカー  太田 桂子
 出雲大社は縁結びの神様として有名な大国主命が祭られていますが、神話において白うさぎを助けた「医薬の神」でもあります。60年に1度の平成の大遷宮において、出雲大社から当院へ、「天前社(あまさきのやしろ)」の屋根を覆っていた檜皮(ひわだ)を加工した炭の寄贈がありました。「天前社」は大やけどを負った大国主命の治療と看護を行ったとされる「看護の神」が祭られています。当院緩和ケア病棟は、病室の天井裏に檜皮炭を敷き詰め、炭の持つ調湿作用とともに「医薬と看護の神」のご加護を祈念して檜皮を使わせていただいております。私たち出雲人にとって、出雲大社は大切な拠り所でもあります。
 さて、少子高齢化や地域社会の脆弱化など社会構造の変化の中で、人々が様々な生活課題を抱えながらも住み慣れた地域で自分らしく暮らしていけるように、厚生労働省は「地域共生社会」の実現にむけた取り組みを進めています。「地域共生社会」は制度や分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が「わが事」として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて「丸ごと」つながることで、住民一人一人の暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会とされています。
 緩和ケア領域においても、がん患者とその家族に限らず、子どもから大人、そして障がいや認知症を抱える人、生活上の困難を抱える人が生活者として共に暮らしていくために、「わが事、丸ごと」の地域作りと包括的な支援体制の整備が求められていると思います。それは、病院だけではなく、在宅や介護を提供する様々な施設も含めた地域社会においても推し進められています。しかし、地域住民が「わが事」として、地域の生活課題をともに検討しているとはまだ言い難いのではないでしょうか。
 私は、「一人の課題から」を合い言葉に、院内院外の関係機関と地域住民が一緒になって解決するプロセスが、地域共生社会の実現に向けた気づきや学びの機会になるのでないかと考えています。多様な複合化した課題を抱えて暮らす地域にアプローチし、地域の資源が患者を支え、患者自身が支える力になることも求められています。その一人一人にとって、ウェルビーイングを求めて自立と尊厳の尊重が何より大切なこと。地域で、暮らしを営み、そしてその人らしく幕を引いていく、まさに緩和ケアの求めるところであります。
 出雲大社の存在が出雲人にとって大切な拠り所であるように、それぞれの地域に根ざした拠り所や強みがきっとあるはずです。案外、意識しないと気がつかないかもしれません。多くの市民と「他人ごと」ではなく、この地域で安心して暮らせる地域づくりのために裾野を拡げていければと願っております。

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