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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.76
日本緩和医療学会ニューズレター
Aug 2017  76
巻頭言
助けないという助け方
札幌市立大学 看護学部
川村 三希子
 私の好きな本の中から「べてるの家の「非」援助論〜そのままでいいと思えるための25章」を紹介します。タイトルからして風変りなこの本は、北海道浦河町にある精神障害を抱えた人たちの有限会社・社会福祉法人「浦河べてるの家」から発行されています。「浦河べてるの家」には、「苦労を取り戻す」、「三度の飯よりミーティング」、「弱さを絆に」、「安心してサボれる会社づくり」をキャッチフレーズに精神障害を抱えた人達が、自分を取り戻すために暮らしています。そこには、幻聴や妄想を語り合う「幻覚&妄想大会」があり、「失敗してもいい」、「不安があって当然」、「悩みや苦労を取り戻そう」といった逆転の人生哲学があります。精神障害をもつ人たちが、その語るに値しないと封印してきた自らの歩みを自分の生きてきた歴史として語るとき、無意味であった日々が意味をもちはじめ、語ることを通じて、人と人が新たなつながりを得るという実話が描かれています。語ることによって人が救われる。助けない、という助け方がある。そんな驚きの一冊です。
 ちょうどこの本に出合った頃、私の友人が進行がんを患い闘病していました。彼女は脳にも転移し、かなり深刻な状態でしたが、いつも明るく調子のよいときには一緒にご飯を食べ他愛のない話をして過ごしました。ある日、いつものようにおしゃべりをしながら過ごしていると、彼女から唐突に、「あなたは私を助けようとしないから一緒にいてとても楽。他の人はね、私が病気の話をしたりすると助けようとするからとても疲れるの。」と言われたのです。複雑な気持ちでした。彼女が抱えている現実を想像するだけで苦しく、理解しようとするだけで精一杯でした。助けようとしないのではなく助けられないだけでした。ただ、彼女にこう言ってもらえたことで私は最期まで彼女の友人として居続けることができました。助けないという助け方があるということを気づかせてもらったような気がします。
 彼女が逝ってから12年が経ちました。「がん患者がいつでも集まって、おしゃべりできる喫茶店を作って欲しい。名前は“天国に一番近い喫茶店”にしてね!」。それが彼女の願いでした。もし彼女の願いが叶えられたら、がんになった苦労や悩みも、がんになったこと以外の苦労や悩みや不安も、たくさん語られるような素敵な喫茶店ができると思います。

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