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Japanese Society for Palliative Medicine
News Letter No.75
日本緩和医療学会ニューズレター
May 2017  75
よもやま話
end-of-life careにおけるコミュニケーションスキル実習
山梨大学医学部附属病院 緩和ケアチーム
飯嶋 哲也
 コミュニケーションスキルの臨床実習を行うにはどうしたらよいのだろうか。2014年2月、英国Liverpool大学での緩和ケア臨床実習の視察を終えての帰路、飛行機の窓から遠ざかる英国の街並みをみつめながら考えていました。恒藤暁先生のご紹介で実現した視察でした。当時のLiverpool大学では4週間のPalliative Careの臨床実習期間中、毎週水曜日がコミュニケーションスキル実習に充てられていました。朝から晩まで、まる一日コミュニケーションづくめです。私が見学したのは1週目のグループワークでした。12人ほどの学生のグループを2つに分けて、簡単なレクチャーを行います。そのあとグループごとに「医療者はなぜ患者の気がかりを明らかにしようとしないのか?」というテーマで話し合います。その結果を模造紙にリストアップして、それぞれについてグループ間で討議するというものでした(写真参照)。これだけでほぼ半日かけての実習です。こんな時間の余裕は少なくとも私にはありません。さてどうするかとしばらく思案に明け暮れていました。しばらく考えたのち、今あるリソースの中でやってみるしかない、と踏ん切りをつけることにしました。私が所属する麻酔科の既存の臨床実習の合間を縫って、可能な限りのことをやってみることにしたのです。2014年4月から麻酔科臨床実習の一環として「end-of-life careにおけるコミュニケーションスキル実習」と銘打った実習を始めました。
 山梨大学医学部医学科では1グループ6名の5年生が2週間ごとに各診療科を実習するというスタイルをとっています。麻酔科では朝一番の手術症例の麻酔導入を見学したあとにクルズスを行って、午後は、術前・術後の診察やペインクリニックの外来実習などという構成になっています。この麻酔科実習の合間を縫って、コミュニケーションスキル実習を行うことにしました。初日にトリガーとなる講義を行い、翌日から1日にひとりずつ、教官である私とのマンツーマン回診に同行してもらい、レポートをe-mailで提出してもらうという形式としました。
 これまでの3年間で「end-of-life careにおけるコミュニケーションスキル実習」をほぼ構造化することができました。2週間の麻酔科臨床実習の初日に約2時間のトリガーレクチャーを行い、翌日から毎日ひとりの学生と30分程度の回診を行います。対象は緩和ケアチームで併診しているend-of-lifeの患者さん・ご家族です。2016年3月から稼働し始めた6床の緩和ケア病床が主たる実習の場となっています。余命1週間程度のend-of-lifeの患者さん・ご家族と教官である私が、どのようなコミュニケーションスキルを使って話をしているのかをよく観察してもらうことに主眼を置いています。理論を教えるだけではなく、実際にコミュニケーションスキルがどのように役立っているのかを注意深く観察してもらうのです。回診中に使われたコミュニケーションスキルをピックアップしてもらうことを中心としたレポートはe-mailで翌朝までに提出してもらいます。届いたメールにはコメントをつけて返信します。この実習はコミュニケーションスキルを自主学習していくためのきっかけづくりの実習であると学生たちを鼓舞しています。臨床実習を始める前にこの実習を受けたかったという感想がメールで届くのは私にとっての励みになっています。
 これから約20年後、年間死亡者数が160万人を超える多死時代に医師としての働き盛りを迎える今の医学生たちが、しっかりと「死」に向き合えるためのコミュニケーションスキルの基礎を伝えたいと思っています。この実習をなんとか3年間続けてこれたのも緩和ケアチームの他のメンバーの協力あってのことです。また、麻酔科学講座の松川隆教授の理解の賜物でもあります。この場をお借りして感謝の意を表したいと思います。
 もはや片手間では行えなくなった感のある「end-of-life careにおけるコミュニケーションスキル実習」ですが、地道に5年10年と続けることで「教育文化」として根付くのではないかと考えている今日この頃です。

【写真】コミュニケーションスキル実習

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